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成果報告その他の報告

研究ハイライト

成果報告

高校生による新しい電波星(メーザー天体)の発見について
 ‐2010年度の美ら星研究体験隊の成果発表‐

2010年8月11日から13日まで、国立天文台のVERA石垣島観測局にある口径20m電波望遠鏡を用いた高校生による天文学研究の体験企画「美ら星研究体験隊」(略称:「美ら研(ちゅらけん)」)が、沖縄県立石垣青少年の家で宿泊しながら開催されました。

今回で5回目になる、この企画において、八重山高校と開邦高校の生徒達のチームが、天の川のいて座(南斗六星)方向に、これまでに検出されたという報告がない、新しい電波星(メーザー天体)を発見したことが、明らかになりました。

美ら星研究体験隊での新しい電波星の発見は3個になり、この研究体験企画がVERAプロジェクトの研究にとっても重要な役割を果たしていることも明らかにしました。

発見の経緯

2010年の美ら星研究体験隊には、沖縄県立八重山高等学校から8名、沖縄県立開邦高等学校から4名の高校生が、2泊3日の研究体験に参加をしました。

12名の高校生は3班に分かれ、各班で国立天文台スタッフ(チューター)の用意した資料をもとに観測方法・観測天体を検討しました。その後、班ごとに割り当てられた時間帯での観測を行い、そのデータを専用ソフトによって解析しました。

3班合わせて、3日間で合計48天体の観測を行い、いくつかの天体からメーザー放射と思われる電波を検出しました。これらのほとんどは、過去にすでに検出されていたメーザー天体であることがデータベースから確認されましたが、VERA-1班の観測した15個の天体の中の1天体については、過去に検出の報告例がなく、新発見のメーザー天体である可能性が高いことがわかりました。その後おこなわれた国立天文台の確認観測で、この天体がこれまで観測されたことのない新しい電波星(メーザー天体)であることが確実となりました。

観測内容、新メーザー天体について

私たちの太陽のある銀河系(天の川銀河)の中心には巨大ブラックホールがあり、その周囲には大量の星や星間物質が集中している事が知られています。特に中心領域の差し渡し1千光年程の領域には、星の卵となりうる分子ガスが大量に集中しており、この周辺の領域の星の誕生を担っていると考えられます。一方で、メーザー放射(特に今回観測を行った水蒸気メーザー)は生まれたての星(原始星)でしばしば観測され、生まれたての星の周りのガスからメーザーが放射されている事が知られています。

今回VERA-1班は、アメリカを中心としたグループ(Yusef-Zadeh ら)の研究による銀河系中心領域の重たく若い星であると推測される天体のリストを参考に観測を行いました。このリストは、アメリカにより打ち上げられた赤外線天文観測衛星であるスピッツァー宇宙望遠鏡で観測された赤外線で見つけられた星(赤外線星)について、その他のデータを含む多波長の観測データから重たく生まれたばかりの若い星であると推測された天体をまとめたリストです。

水蒸気メーザー放射を起こす様な生まれたての星は、多くの場合この様な赤外線でも観測され、赤外線等の放射の特徴からメーザー放射を起こしそうな周囲のガスをまとっていると思われる天体を選びだす事が出来ます。

VERA-1班では、この天体リストから高校生自身が15天体を選んで観測を行い、2天体でメーザーを検出しました。このうち1天体については、近くにある既知の非常に強いメーザー天体からの漏れ込みである事が2日目の観測から判明しました。一方もう1天体の方は、赤外線星の方向を含めた周囲5点を観測し、ほぼ1分角以内程度でメーザーの位置が赤外線星と一致している事を確認しました。

赤外線星の名前は「SSTGC 0246410」と言う天体(スピッツァー宇宙望遠鏡 銀河中心プロジェクトの246410番目の天体と言う意味)で、方向としてはいて座になり、さそり座、へびつかい座との境界に近い天の川の中に位置します。また、データベースや過去の論文を探しましたが、この周辺には水蒸気メーザーの過去に検出の報告例がなく、高校生によって新たに見つけられたメーザー天体であることが確実になりました。

この天体が本当に銀河系の中心領域にあるのかどうかはまだはっきりとは分かりませんが、銀河系の立体地図作りをめざすVERA計画にとって、観測天体がひとつでも増えることは天文学の研究に大きな役割を果すものです。VERA を使った今後の観測により距離が求められ、銀河系の中心領域のメーザー天体である事が分かれば、この星が生まれたであろう銀河系中心領域の分子ガスについての新しい知見がえられると期待しています。

画像
今回発見された新メーザー天体の位置。銀河系中心に近い、いて座方向にあります。
グラフ
新メーザー天体から受信された電波のスペクトル。横軸はメーザーの周波数、縦軸は強度を温度の単位で表した値。中央に飛び出た電波が、水蒸気メーザーの電波であることを示しています。

発見の意義

今回の新メーザー天体の発見は、2005年、2008年についで、美ら星研究体験隊では3例目となりました。VERAでは天の川銀河の立体地図作りを目指しています。そのため、観測天体が1つでも増えることは、銀河系の構造や運動を明らかにすることに大きく貢献します。新たに発見されたメーザー天体の位置(距離)をVERAによって正確に決めることができれば、これが銀河系の位置や運動の基準となる「1等三角点」の1つとしてカタログ化されることになります。

また、今回発見されたメーザー天体は、銀河系中心方向のいて座付近にあります。この領域は、銀河系中心方向に向かう視線上に複数の渦上腕が重なっており、銀河系の立体地図作成において最も重点的に観測すべき領域となっています。今回発見された天体の位置や運動を近くにある別の天体と比較することで、銀河系の運動と構造を解明する上できわめて重要な情報を得ることが可能になります。

さらに、これまでの美ら星研究体験隊でのメーザー天体の観測データは、「どのような性質の天体にメーザーが検出されるのか?」という、問題を解明する上でも大いに参考になるデータといえます。メーザーが検出される天体とされない天体の比較により、星の誕生や進化過程の理解が進むと同時に、今後のVERAによる観測天体の探査で、どのような性質の天体を観測すれば検出率を上げることができるか、という疑問に対しても貴重な手がかりを与えると期待されます。

今回の成果については、来年3月に筑波大学(茨城県)で開催される日本天文学会春季大会のジュニアセッションで発表することを考えています。

美ら星研究体験隊について

国立天文台水沢VLBI観測所のVERAプロジェクトでは、4つの観測局の1つを沖縄県石垣市に設置しています。

2002年のVERA石垣島観測局完成をきっかけに、様々な広報普及活動を行っており、その一環として、2005年から毎年夏に、沖縄県の高校生を対象とした研究体験「美ら星研究体験隊」が開催されています(国立天文台・沖縄県立石垣青少年の家・八重山地区県立高等学校長連絡協議会・NPO八重山星の会との共催)。

この企画は、国立天文台VERA石垣島局にある口径20mの電波望遠鏡を用いた観測やデータ解析を高校生自らが行い、天文学者と全く同じ研究の体験を通して、地元で行われている世界最先端の科学を身近なものに感じてもらうことを目的としています。

本年は、2005年の第1回から数えて5回目となります。(2006年は都合により開催されていません。)

(参考) これまでの「美ら星研究体験隊」の成果



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