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研究ハイライト

成果報告

いて座D HII領域の距離論争が、VERAの精密距離測定でついに決着!

画像
いて座D方向の赤外線(12マイクロメートル)画像。NASAのWISE衛星(※2)により撮影。黄色の四角で囲まれた領域がいて座Dです。いて座Aと示された方向に天の川銀河の中心があります。 (Copyright)

国立天文台水沢VLBI観測所所属で、東京大学博士課程3年の酒井大裕氏を中心とした研究チームは、VERAを用いて、いて座D HII領域(※1)の年周視差計測(三角測量)に初めて成功しました。これにより、長い間続いていた距離論争が決着しました。

いて座Dは天の川銀河の中心近くに見える天体で(左図)、この方角には、いて座 A, B, C, D, (E)など多くの天体が密集しています。いて座Dを細かく見ると、いて座D HIIという天体が存在します。いて座D HII領域の位置関係については、「銀河の中心近くに位置する」「銀河の中心の向こう側」「銀河の中心に対して手前側」など、20年以上もの間、研究者によって意見が分かれていました。

本研究チームは2008年5月から2011年2月にかけて計9回、国立天文台のVERA望遠鏡を用いて、いて座D HII領域の観測を行いました。そして年周視差計測(図1)の結果に基づき、いて座D HII領域までの距離を2.0〜2.9キロ・パーセク(約6,500〜9,500光年)と、高精度に求めることに初めて成功しました。

fig.1
図1:VERAの観測結果 (Sakai et al. 2017 より)。
(a)2010年から2011年における、いて座D HII領域の、位置の変化を見ています(※3)。
(b)(a)の位置変化を、東西成分と南北成分に分けてみています。横軸は時間(年)です。
(c)(b)の位置変化から、正弦波(サインカーブ)の成分のみを取りだしています。(東西成分の)正弦波の振幅が、年周視差(※4)に相当します。

本研究チームは、VERAによる距離測定に基づき、いて座D HII領域の新しい描像を提示しました(図2)。従来、距離(位置)について議論が分かれていた、いて座D HII領域が、実は銀河中心よりも手前の渦巻き腕に位置するという驚くべき結果です。
VERAは2022年中の観測完了を目指し、今後も天の川銀河の年周視差計測を進めていきます。VERAによる観測で、私たちが住んでいる天の川銀河の正確な姿・形が明らかになることが期待されます。

fig.2
図2:いて座D HII領域の、天の川銀河における位置関係 (Sakai et al. 2017 より)。

※1: HII領域とは、電離した(電子が剥ぎ取られた)水素(原子)が光っている領域で、内部では活発な星形成が行われています。生まれたての(高温で青い)星々が紫外線を放出することで、周りのガス(水素分子など)を電離しています。

※2: WISE : Wide-field Infrared Survey Explorer (広域赤外線探査衛星)

※3: 1年間に数ミリ秒角(分度器一目盛の360万分の1程度!)しか動いていません。

※4: 年周視差は、地球が太陽の周りを公転運動することで、(天体に)生じる視差です(自分の指を右目と左目で交互に見たときに生じるズレと同じ原理)。年周視差は、天体の距離に反比例して小さくなっていきます。天文学では、年周視差が1秒角に相当する天体までの距離を1pc(パーセク)と定義しています。

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